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「そうだ、リク、これあげようと思ってさあ」
玉城はショルダーバッグをゴソゴソとかき回すと小さな白い封筒を取りだした。
だが端っこを持ちすぎたためポトリと足元の草の間にそれを落としてしまう。
おっと、と草の中に手を伸ばす玉城に、リクがささやいた。
「その草、気を付けてね。草の汁が目に入ったら目が見えなくなっちゃうから」
「え!」
玉城の手が宙で止まる。
「大丈夫」
リクは少し笑いながら手を伸ばして落とした封筒を拾うと、玉城に手渡した。
「若芽のエキスを体内に取り込むと筋肉麻痺を起こして昏睡状態に陥ってしまうんだけど、手に付けたりしなければいいんだから」
玉城は苦笑した。
「まるで試したことがあるような言い方するなあ。そういうことにも詳しいのか?」
「春先に咲くアセビの白い花は食べると神経麻痺を起こすし、玉ちゃんの頭の上に実ってるイチイの実は、種まで食べてしまうと呼吸麻痺を起こして命を落とすこともある」
心なしかリクの口調が楽しそうだった。
玉城はおもむろに自分のすぐ上で頭を垂れている赤い実を見上げた。
「危険がいっぱいだな」
「デンジャラス・フォレストへようこそ」
リクが笑う。
基本彼は饒舌だった。心は開かないくせに。
どこまでが本当でどこまでが嘘なのかわからない。あの編集長が嫌うのはリクのそんな部分だろう。
けれど玉城は思う。
彼にしか見えない「モノ」たちが彼をそんな人間にしてしまったのだと。
「ここにも沢山現れるのか?」
「現れる?」
キョトンとしてリクが聞き返す。
「ほら、あれだよ。リクにしか見えない奴ら」
「ああ、霊のこと言ってる?」
リクはゆっくり家の方へ歩き出した。
「そう、そいつら。あんまりそいつらに好かれると良いこと無いって思ってさ」
「そっくりそのまま返すよ」
「俺は違うって。霊感なんかない。あの時はきっとたまたまなんだ。俺の事はいいんだって」
玉城はそういうと封筒から取りだした物をリクの前に差し出した。
「これ、持ってろ」
怪訝な顔でリクが立ち止まる。
「……お守り?」
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