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「何て顔してんだよ。もっと笑えよ」
一眼レフを構えた玉城が苛立った声をリクに投げかける。
猟銃を構えた密猟者を威嚇する獣のように、険しい顔つきでリクはカメラを睨みつけた。
あきれたようにカメラから顔を上げる玉城。
「OKしてくれたのはリクだろう? いい加減、普通に撮らせろよ」
「何で玉ちゃんが撮るんだよ」
ムスッとした声でリクが言う。
「知らないよ、長谷川さんにお前が撮れってカメラ渡されたんだから。それともあれか? 美人の女性カメラマンとかが良かったか?」
「嫌だよ」
「じゃあ大人しく撮られろ。ったく、ワガママな奴だなあ」
玉城は呆れ顔で目の前の椅子にふてくされて座っている気難しい青年を見た。
原稿は入稿済みだ。今日中に写真を上げなければ締め切りに間に合わなくなる。
きっと長谷川はピリピリしながら苛立って待っていることだろう。
玉城は溜息をつきながら何となくリクの部屋を見渡した。
窓からは薄いシェード越しに柔らかい木漏れ日が差し込んでくる。
微かな木の匂いと、どこからか聞こえてくる小鳥のさえずりが心地いい。
窓の外のケヤキは穏やかに揺れている。
リクの周りの空間は、今日はすこぶる穏やかだった。
……と言うことは目の前の青年の機嫌も、実は言うほど悪くは無いのかもしれない。
そんな風に思ってしまう自分が奇妙で、玉城は可笑しくなった。
「なあ、リク」
「なに」 不機嫌そうにリクが返す。
「この前あげたお守り、覚えてるか? あれって結構効果あったんじゃない?」
「え……どうして」
「最近お前、あまり変な奴らに付きまとわれずに済んでるだろ? やっぱりあのお守りの魔よけの効果は絶大なんだよ」
リクは何となく居心地悪そうに視線を動かした。
「え? そうじゃないのか? やっぱり何か出る?」
「いや、大丈夫だけど」
「ほらみろ。そうだろ? 感謝しろよ。霊とかお化けの類には、なるべく会わない方がいいんだ」
「……ああ……。うん。そうだね」 リクは柔らかく笑った。
その瞬間を玉城は逃さなかった。
オートフォーカスがギュンと唸り小気味よいシャッター音がカシャリと響く。
「おお! いいの来た!」
満足そうに玉城が声を上げた。
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