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上機嫌でリクの家を後にし、自分の寮の階段を登っていた玉城の携帯に長谷川からの着信が入った。
『どう?』
「バッチリですよ。何ならこれからカメラマンとしても使って欲しいくらいです」
『まあ、被写体がいいからね』
長谷川の苦笑すら、今の玉城には称賛に聞こえた。
玉城は会話を続けながら自分の部屋の前で立ち止まり、鍵を探した。
その玉城の横をヒョロリとしたメガネの青年が通り過ぎていく。
青年は軽く玉城に会釈すると、左隣の部屋の鍵を開け、何の躊躇もなく入っていった。
「あれあれ?」
携帯を持ったまま玉城は思わず声を出す。
『何? どうした?』
「いえね、僕の隣の部屋って、グリッドの編集の女の子が住んでるはずなんですけど」
そう言いながら玉城はチラリとその部屋のネームプレートを覗き込んだ。
そこには「佐々木」と書かれている。
『編集部の子? 誰よそれ』
「ヤマネさん」
『…………は?』
「だから、編集部のヤマネさん」
『山根由梨ちゃん?』
「そう、そんな名前だった」
『居たけど、もう6年くらい前に事故で亡くなったわよ』
「え?」
『もしもし? 玉城? 何で由梨ちゃんのこと知ってんのよ』
「え?」
『玉城?』
長谷川の太い声も、次第に遠のいて行った。
『玉城? 聞いてる?』
”ごめんね、あのお守り、やっぱり効かないと思うよ”
気遣うような、申し訳なさそうな、リクの言葉が蘇ってきた。
同時にゾクゾクと足元から背筋へ冷たい感覚が這い上がってくる。
玉城はゆっくりとショルダーバッグのポケットから、あの朱色のお守りを取り出してじっと眺めた。
―――全部お見通しかよ、リク……。
次に会ったときは素直に敗北宣言しなきゃいけないな、と玉城は思った。
あのお守りは、全然効果なかったよ……と。
(END)
*第3章へ続きます
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