この世の終わりのようなカンケイ(仮)

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「手遅れだなんてヒドイよ。ミヤコ」   好きな相手とキスしたいだなんて、大抵の人間は考えるものでしょ? オカシイことなんてなにもないじゃない。 「でも、こうなっちゃったのはアタシの責任だから」 ウチのとは違う、シャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。 「アタシは、アタシだけはあんたの側にいるから」 「‥‥‥大げさだよ」   どうして、ウチがミヤコに抱きしめられているのか理解できなかった。   さっきの背後からはからかいの延長だとしても、今されているのはどうしてだろう。   お母さんに目撃されたことに同情してくれているのだろうか。   それは非常にありがたいのだけれど、本当はもうなんとなく立ち直ってきていた。    今頃、お兄ちゃんがお母さんをどうにかしてくれている頃だろう。   一からまた新しい関係を構築するのは手間で、怖い部分もあるけれど、それでも家族だから。   家族なんだから、どんなになってもちゃんと仲良くしないと。 「ありがとう、ミヤコ。ウチのこと本気でおもってくれて」   椅子に座ったウチを上から抱えるようにして包み込んでくれているミヤコを、ウチもそっと抱きしめ返す。 暖かな温もり、心臓の鼓動。   その身体はまさしく血の通った人間のものだった。   数秒か、数分か。   ウチとミヤコが抱き合ってから暫く経過して、ねえ、とミヤコが沈黙を破った。 「‥‥‥これから、あんたの家に行ってもいい?」 「ミヤコがうちの家に来たいだなんて初めてだね。急にどうしたの」 「シンヤくんのお見舞い、アタシもしたいかなって。それにお兄さんにも会いたいしさ。久しぶりに」 「うん、分かった。いいよ」 「ありがと」   ミヤコの背中のずうっと向こう、閉じられた教室のドアには、ウチとミヤコの影の塊が、真っ赤なキャンパスに黒々と映えていた。   ウチはその光景をぼうっと眺め、そういえばシンヤの新しい布団はあの影と夕焼けの色をぐちゃぐちゃにかき混ぜたような、キレイな斑色だったなぁと。   そんなどうでもいいようなことを、考えていた。
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