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『ただいまぁ。お兄ちゃん』
玄関から届く、毎度お馴染みの声に、リビングでサブカル雑誌に目を通していたオレも「お帰り」とルーティンに返事をした。
トテトテトテといつもの足音に、今晩はスッスッスッという聞きなれない足音がもうひとつ。
「こんばんわ。お兄さん」
「あれ。ミヤコちゃん」
「ええ。お久しぶりです」
タイミングがタイミングだっただけに、突然の訪問客に必要以上に戸惑ったものの、客人が彼女であったこととと、彼女の表情を見てすぐにいらん心配だったと理解し、持ち上げた尻を再びソファーに落とした。
どうやら彼女は、おおよその察しを携えてやってきたらしい。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん」
妹が、すがるようにオレを見つめている。
「お母さんのこと、なんだけど」
オレは妹の頭を二、三度撫でて、
「安心しろよ、もう済んだから。母さんもわけも聞かずに悪いことしたって、泣きながら謝ってたぞ。今日は流石に無理だけど、今週中にはまた母さんを連れてくるよ」
「ほんと?」
「ああ、本当だとも」
オレの返事に満足したようで、妹はリビングの真ん中でクルクルと回りだした。
風圧でプリーツスカートの端がふわりと踊る。
喜んでくれているようで何よりだ。色々動き回った甲斐があった。
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