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平坦な道がそこにはあった。
雑に整備された道の両脇は野原のように草木が生い茂る。
その様子から周囲には集落が皆無に等しいことが明らかである。
そんな人気のない道を二人の少年少女が並んで歩いていた。
「だから先輩のせいで今日の宿代も無いんですって!クルェツカ国に着く前に私達飢え死にしますよ!」
「あーあー、聞ーこーえーなーいー」
黒髪から長く白い耳を生やした少女ハル=レムナは『先輩』と呼ぶ長身の少年を叱責すると、その少年クラウン=パトリックは耳を塞ぎ目を逸らす。
というのもこの少年、三日前まで居た街でギャンブルをして使い果たしたとか。
そのせいで旅費を貯めておいた彼女の財布の中は空だ。
「てか、もういいだろ?また先の街で稼げばいいだろうに」
「簡単に言いますね…。大して稼ぎもしないくせに。二つ前の街のバイトの給料だってあなた、合計金額の二割も稼いでなかったでしょ!」
ハルの激怒とともに、長耳が逆立つ。
「私はしつこいですからね。まだ言いますよ」
そしてぷいっ、と背を向けた。
振り向いたハルの地味なスカートの尻の部分から可愛らしく出ている白く丸い尻尾がピクピクと動いている。
ここまで話すと分かると思うが、ハルは人間ではない。
獣人類。
数百世紀も前に世界中の生物が魔力に感染した後、その魔力の影響で思考、身体が発達、進化し人型に成り繁栄した獣類。それらを総称して《獣人類》と呼ばれている。
しかもハルは獣人類の中でも、兎族と今では珍しい種族である。
「そんなこともあろうかと、俺、実はこんなの用意してたんだよなー」
クラウンはわざとらしく言うとやはり気になったのか、そっぽを向いていたハルは横目でクラウンを見た。
彼女の目に映ったのは少年が握るハルの、いや兎族が好んで食す野菜、人参だ。
「これで機嫌を直してくださいよ、ダンナ」
「…私を人参で釣ろうだなんてそうはいきませんよ」
「と、いいながらなんだその手は」
ハルは顔を顰めて人参を拒否しているが、寄越せとばかりに掌を広げてクラウンへ突き出し、長耳を左右交互に動かし急かしている。
本能は正直だ、ということだろう。
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