第1章

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 光と影はいつも表裏一体。光がなければ影も出来ない。常に離れることなく引き合う2つ。しかしどんなに互いが手を伸ばそうと、決して交じることがない2つ。光から見る影はしなやかに全てを包み込む柔らかな漆黒。影から見る光は激しいばかりの美しさで見る者を引き裂く純白。互いにどんなに手を伸ばそうと決して・・・・。  雨だった。夜の中、銀の糸が空から無数に地上へと縫いつけられるように滴っている。その隙間を滑りぬけて一人の少女が彷徨う。しっとりと濡れた黒髪が額や頬に張り付いているのも気付かぬように、夢遊病者のような足取りはどこへも向かってはいなかった。ただ、どこかへ行きたかった。ここではないどこか。今ではない時へ。逃げられるものならばどこへでも。一番逃げたい「自分」から逃げられるのならば何を差し出しても良かった。『ウザ』『死ねば?』『存在自体、キモイよね』耳の中にこだまするのは毒をたっぷりと含んだ言葉とくすくす笑い。雨の作りだす美しいレースのカーテンの向こうに手を伸ばす。何かをつかむように。縋るように。その時、闇を鋭い光が切り裂いた。甲高い音、鈍くこもった音。同時に起こった。少女の意識はここで途切れた。  「ここ、どこ?ってか、何で真っ暗?!どうなってんのよ!!!」  どんなに声を大きくしても全て闇に溶けてしまうように、七海の声はどこにも届かない。いつからここに居るのかどれくらいこうしているのか、全く分からない。たった今気が付いたような気もするし、もう何年もここにこうして居るような気もする。自分の鼻先でさえ見えないような闇。少しの光さえ無い。自分が立っている足の下が硬いことは判るが土なのか岩なのかそれともコンクリートやアスファルトなのかそれさえもはっきりとしない。周りに手を伸ばしても指先に触るものすら何もない。一歩を踏み出すのが、こんなにも恐ろしいのはきっとこの闇のせい。七海はその場にしゃがみ込んだ。確かなのは触れる自分の体だけ。自分の呼吸音がやけに耳に障る。それを振り切るようにまた七海は闇に呼びかけた。  「誰かいないの?ねえ、返事して!誰か!」
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