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叫ぶ声もどんどん闇へと吸い込まれていく。と、いきなり七海の体がびくっと震えた。闇の中、かすかな音が彼女の耳に聞こえた。ずるっと重たい何かを引きずるような音。地面を何かが擦っているような・・・それと同時に、シューと言う音が聞こえてくる。敏感になり過ぎた五感が彼女を急き立てる。立ち上がって一瞬躊躇した七海は、直後に自分の足元へ近づいた何かの気配に飛び上がった。
「いやーっ!!!!」
右も左も分からないまま、走り出す。向かっている先も全く見えない。まるで悪夢の中で何かに追われて逃げているような感覚が七海を襲う。しかしそれは唐突に終わった。走る勢いのままに、七海は壁にぶつかったのだ。幸いだったのは少し疲れた足と、暗闇の不安とで最初のスピードが無くなっていたこと。それでも体が弾き飛ばされるほどの衝突だった。一瞬息が詰まって、声も出ない。受け身すら取れない体勢で硬い足元に投げ出されたのだ。おでこと右肩、倒れた時に打ったらしい背中に痛みが走った。
「いっっった・・・い!!壁、わかんないし。もう!おでこにこぶ出来てるじゃん!」
手に障った額は、ぽこっと確かに腫れはじめている。手のひらも少し擦りむいたようだ。しかし、それでやっと七海は冷静さを取り戻した。尻餅をついたまま周りを触ると、手にはどうやら硬い土のような地面が触れている。そのまま這って壁へと手探りで近づくと手を離さずに立ち上がる。
「壁があるってことは、どっかに繋がってるってことだよね?これを伝わって行けば。」
その先が行き止まりになっていることは敢えて考えない。とにかく歩いてみる事より他に進む道は無かった。七海はゆっくり歩きながら、一人つぶやく。
「大体、なんでこんなとこにあたしはいるの?夢にしちゃ、リアルすぎだよ。」
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