0人が本棚に入れています
本棚に追加
見知らぬ女の声が聞こえた
月の輝く秋の夜長
いつか感じたモノクロが
首をもたげてやってくる
誰かは忘れてしまった
言の葉を追う小童
夢中で指先に墨をつけ
内なる高鳴りを言の葉とし
拙くも勇ましく紙上に著した
輝かしき明日の為
未だ言の葉を追う若人
己にのみ許された表現を信じ
幼き時分に恥じぬよう
酔い腰ながらも日々を駆けた
夢砕けた疲れ人
追うた言の葉はもう見えず
懸けた道はもう消えた
あまねく文字は彼を指し
嘲笑うかのように消えていく
傍に寄り添う言の葉はなく
手ずから酌した酔いのみ残る
何処から聞こえる女の声
どうしてそんなに楽しげか
病の床から見える月
どうしてそんなに美しい
言の葉を欲する老いた身は
握った筆の暖かさに涙する
綴れど綴れど満たされず
綴れば綴る程に満ちていく
やがて病の床の老いた身は
可笑しくなって笑い出す
かつて小童が追ったその言の葉
かつて若人が望んだその言の葉
かつて疲れ人が捨ててしまった言の葉
そして老いた身が掴んだ言の葉は
この流れる命の道程にこそあったのだと
最初のコメントを投稿しよう!