愛は初恋とともに

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「はぁ!?違うわよ!父親の手掛かりを手に入れるためって言ったじゃない! 最初から興味無かったわよ。あんなルックスDランクの男なんて。セックスまでは知らないけどさ!」 煽られるままにフンと鼻を鳴らし、店員に次のお酒をオーダーしようとテーブルに有るブザーを押した。 「おい、こんな公衆の面前で女がセックスって……恥ずかしくないか?」 「煩いわね。アンタが言わせたんでしょーがっ!」 「あの夜にも思ったけど、おまえってさ……」 彼は言葉を止め、何か言いたげな目をして私を真っ直ぐに見つめる。 あの夜?―――って、もう少しで既成事実を作りそうになった……あの夜のこと? その熱のこもった視線に不意を突かれて、胸がトクンと密かな鼓動を打つ。 「……なっ、何よ」 「いつもカリカリしてるよな。早く老けるぞ」 「ぬわっ!」 何だと―――――――――っ!? 「アンタが私を怒らせるのよ! ちょっとそこのお兄さん!何をチンタラしてんのよ!早く私にも生中を頂戴!」 待ち切れず、顔に火をつける私は手を挙げて注文を叫ぶ。 「プッ!おまえってホント面白い女だな~。一緒に居て退屈しねぇ」 イラつく私を眺めながら、彼は大きな口を開けて笑い声を上げた。 ――――― 居酒屋を出て深夜0時を迎える頃、賑わいを見せていた平日の繁華街は、静寂な夜の色に塗り替えられようとしていた。 アルコールで火照った体を冷やしてくれるのは、街路樹の葉を揺らす心地良い夜風。 「未だ終電に間に合いそうだから、私は地下鉄で帰るわ」 一歩前を歩く彼に付いて行く私は、腕時計に視線を落としながら何気に言う。 「終電?色気の無い事を言うなよ。ちゃんとタクシーで家まで送ってやる」 振り返った彼はため息混じりに言うと、動いて行く秒針を隠すように時計ごと私の手首を掴んだ。
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