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「何が色気が無いのよ。呑んだら終電。普通でしょ?」
「それは相手が友人の場合だろ。つべこべ言わずについて来い。終電過ぎたらタクシーを捕まえ難くなる」
考える頭ははっきりとしているものの、若干フラフラした足取りの私。彼はそんな私の手を繋ぎ、狭い歩道ですれ違う人から私を守るかのように体を引き寄せる。
あ……
この状況、デジャヴ。
デジャヴ?……ああ、違うか。あの夜と似てるんだ。彼が私を助け出してくれた、あの夜の状況と。
あの時もこうして手を繋いで廊下を歩いて――
イチャイチャと人前で手を繋ぐなんて私らしくない。繋ぎたいと思ったことも無い。
幼稚なカップルの真似事になんて興味は無いのに……
どうしてだろう。彼と繋ぐ左手だけが拍動するように熱い。
―――三人の女と関係を持っていると言った。
その女達にも、私と同じように優しくするの?
こうして手を繋いで引き寄せて、馬鹿みたいに笑って、気を引くように身の上話まで語っちゃって。
特別なんて存在しないんでしょ?
『友人』でないのなら、あなたにとって私もその内の一人になるの?
この複雑な感情も、全部が他の女にも与えてやる感情で……
「麗香が住んでるの、マンスリーマンションだっけ?」
私の手を引いて大通りに向かう彼が、不意に声を掛けた。
「へっ?……ああ、うん。そうだけど?」
物思いに耽っていた私はハッとして、丸くした目で彼を見上げる。
「ふ~ん。じゃあ壁は薄いよな」
「壁?……はぁ、まぁ。厚くは無いけど」
言葉の意図が分からず、キョトンとして首を傾げた。
「じゃ、俺の部屋って事で」
「はい?」
「前回の続き。今夜こそ麗香を抱きたい。良いよね?」
引き寄せた私の耳元に小さな声を落とし、彼がニッコリと笑った。
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