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結婚を前提に付き合う訳じゃ無いからなんて、そんな事をわざわざ言わなくたって分かっている。
付き合う男に操を立てる人種でも無いくせに。たかが他の男と寝るだけの事。何を今更勿体つけてるんだって、そう言いたいんでしょ?
――――彼の言う通りだ。
私は彼と肌を重ねる事を望んでいる。新しい彼を知るほどに好奇心が湧き上がり、貪欲な身体を疼かせる。
男は本能で女に欲情し、女も本能で男に欲情する。互いの欲情が一致したのなら、身体を結ぶのは謂わば自然の摂理。
今までの私なら、―――いや、彼が相手じゃ無ければ、こんなに迷う事は無いだろう。
何が気に入らないかって?
そのバランスよくパーツの納まった綺麗な顔も、カジュアルもフォーマルも着こなす整ったスタイルも、如何にも女好きな軽いノリも、理解し難い恋愛持論も、ギャップを感じさせる医師としての万能スキルも。
「……気に食わない。何もかも」
「何もかも?」
「あなたが読めなくて、どうしようもなく感情が乱れるの。……こんなの私じゃ無い。
人の都合もお構いなしで目の前をウロチョロする、無神経なあなたのせいよ!」
腕を掴まれたまま足の動きを止め、私は荒々しい声を放って彼をキッと睨み付けた。
二人の直ぐ目の前に広がるのは、タクシー乗り場が道沿いに続く街の大通り。夜空の星を隠す街のネオンと、行き交う車のヘッドライトがやけに眩しく目に映る。
歩道の真ん中に突っ立つ私達。すれ違う人達は一瞬こちらに視線を向け、まるで岩を避ける川の水の様に横へ横へと流れて行く。
「―――驚いた。これはまた、派手な愛の告白だな」
突如耳に入り込んで来たのは、想定外の言葉と零れる様な彼の笑み。
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