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「俺は大御所様を父親だなんて思って無い。全ては過去の話。結局は不自由ない暮らしをさせて貰ってる訳だし、大御所様を恨んではいない」
「恨んでいない……か。そうよね、恨みがあるなら大御所様が主催するパーティーに参加しないだろうし」
悠希の態度からも、そんな蟠りがあるようには感じ取れなかった。
「そうそう。パーティーも退屈しのぎに利用させて貰ってる。要するに、血の繋がりなんて重要じゃ無いって事。人を恨み、変えられない過去を嘆いても何も残らない」
ソファーにもたれ掛かる彼はそう言って、リストに目を置く私の横顔に微笑みを向ける。
「……」
彼の言葉は私への慰めと助言。今更父親を見つけてどうなるんだと、手を貸しながらも内心呆れているに違いない。
全てにおいて、私より一歩も二歩も前を行く大人な人。
「……くだらない事に協力させてごめん」
体裁の悪さが胸に閊えて表情を落とす。
「くだらないこと?」
「もしこの赤川って男が父親だったとしても、25年経った今になって何だって話。無意味よね」
苦し紛れに薄い笑顔を浮かべ、テーブルの上に紙を置いて再び珈琲に手を伸ばした。
「一発ぶん殴ってやるんだろ?」
「えっ……」
「そう言ってたじゃないか。心の中で片がつくなら無意味じゃ無い。麗香が前を向くための清算だ。ドクターとしてもな」
「ドクターとしても?」
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