愛は初恋とともに

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「父親に近づきたくて医師になった。でも、心の何処かに迷いがある。自分はこのままで良いのかと――。『それなりにやってる』……昨日のその言葉を聞いて、何と無くそう思った」 気遣う眼差しと、落ち着いた口調で連ねる彼の言葉。それはあまりに真意を突いていて、言葉を返せぬまま愕然とする。 彼の言う通りだ。 私は心の何処かで迷っていた。そして、医師と言う職業を恨んでいた。 いつか父親を見つけた時、「アンタがゴミの様に捨てた水商売の女の娘でも、アンタと同じ医者になれるのよ」と、嘲笑ってやりたかった。 私は不純。私は偽善者。本当は、人の命を預かって良いような人間では無い。 彼の志を見せつけられて、更に罪悪感に苛まれる。 「……何でもお見通しなのね。悔しいけど図星よ」 素直に出た言葉。大きく息を吐き、彼を横目で見て苦笑いをする。 「俺は麗香と違って経済的にも恵まれて生きて来た。畑違いの環境から国公立の医大に入るのにも苦労しただろう。だからこそ、麗香にはモチベーションを高めて欲しい。父親探しはそのための糧だ。 今の段階で興味がそそられる専門はある?」 穏やかな空気を纏う彼は、私の顔を窺いながら問い掛ける。 「面白そうなのは循環器。これからの時代、体を開く外科的手術よりも、内視鏡やカテーテルを使った手術が益々注目される。私は心臓カテーテル治療に興味があるの。高度な技術が求められる分野だから、あくまでも興味の段階だけどね」 「何だ。ちゃんとした目標があるじゃないか。大丈夫、麗香ならきっと心カテのエキスパートになれる」
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