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私が研修病院に異動した月末の夜、私は亜紀と食事の約束をした。
約一か月ぶりに顔を合わせた二人が入ったのは、学生の頃からお気に入りのダイニングバー。
店長曰く、内装は「ロシアのウラジオストクにあるバーをイメージした」そうで。
歩くと床の木材がギシギシと小さな軋む音を立てるのも、控え目なオレンジ色の照明も、隠れ屋的な雰囲気があり安らぎを与えてくれる。
そしてカウンター席に座る二人の目の前に置かれたのは、この店一押しメニューの海老とアンチョビのバジルクリームパスタ。と、生ハムとルッコラのトマトピザ。
「あ~、バジルのいい香り!向こうに行ってからこの味が懐かしくて、今夜を楽しみにしてたのよね~」
海老と一緒に巻くパスタにソースを絡め、香りを吸い込みながら一口でパクリ。
「んん~っ!美味しい!」
私の口から漏れた歓喜の声。アンチョビの程よい塩辛さはバジルクリームにとても合う。
「……麗香、研修病院に移ってからのが楽しそうだね」
少し拗ねた様子の彼女。
「へ?……そう?」
「うん、そう。仕事は以前よりキツイ筈なのに、今の方が幸せそう。それって年下彼氏の影響?」
身に覚え無くキョトンとする私の顔を、穴が空くかと思うほどにジッと見つめて亜紀が言った。
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