二人の男

2/33
7091人が本棚に入れています
本棚に追加
/837ページ
私が研修病院に異動した月末の夜、私は亜紀と食事の約束をした。 約一か月ぶりに顔を合わせた二人が入ったのは、学生の頃からお気に入りのダイニングバー。 店長曰く、内装は「ロシアのウラジオストクにあるバーをイメージした」そうで。 歩くと床の木材がギシギシと小さな軋む音を立てるのも、控え目なオレンジ色の照明も、隠れ屋的な雰囲気があり安らぎを与えてくれる。 そしてカウンター席に座る二人の目の前に置かれたのは、この店一押しメニューの海老とアンチョビのバジルクリームパスタ。と、生ハムとルッコラのトマトピザ。 「あ~、バジルのいい香り!向こうに行ってからこの味が懐かしくて、今夜を楽しみにしてたのよね~」 海老と一緒に巻くパスタにソースを絡め、香りを吸い込みながら一口でパクリ。 「んん~っ!美味しい!」 私の口から漏れた歓喜の声。アンチョビの程よい塩辛さはバジルクリームにとても合う。 「……麗香、研修病院に移ってからのが楽しそうだね」 少し拗ねた様子の彼女。 「へ?……そう?」 「うん、そう。仕事は以前よりキツイ筈なのに、今の方が幸せそう。それって年下彼氏の影響?」 身に覚え無くキョトンとする私の顔を、穴が空くかと思うほどにジッと見つめて亜紀が言った。
/837ページ

最初のコメントを投稿しよう!