プロローグ

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ゆらゆらと静かに揺れる水草。 壮大な自然の一部を切り取った茂みの中を、虹色に輝く魚たちが優雅に通り抜けて行く。 目に映るものは、淡いブルーの照明に照らされた水中の幻想世界。 誰も居ない暗闇で静かにそれを見据える私は、一糸纏わぬ姿となり、水槽の前で佇んでいる。 水槽の中で飼われた魚は綺麗な水を与え、適した温度に保ち、そして十分な光量を与える事で本来の美しい体色を保ち続ける。 もし私がこの水の世界に解き放たれたとしても、あなたの温もりを失った私に光が差すことは無い。 愛を失った人魚は身も心も色褪せて、海の泡となって消えるだけ。 あなたが触れたこの唇、首すじ、柔らかな膨らみ、お腹、そして――― 身体に刻み込まれた情熱が恋しくて、苦しくて、悲しみに凍える指先が彼の熱を探す。
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