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父親を探し出したあの夜から、一週間が過ぎた日曜の午後。
私は日暮れの気配が漂うオープンカフェで、一之瀬さんと重い視線を交わしていた。
木目調の八角テーブルの上には、ほとんど口を付けずに冷めてしまった珈琲と、婚約指輪の入ったケースが置かれている。
「受け取れないって……未だ一週間だぞ?返事は急がなくて良い。待っていると言ったのに」
束の間の沈黙が降りた後、俯き加減の私をジッと見つめて一之瀬さんが言う。
「待たないで欲しいの。私、あなたとは結婚できません。今までのようなお付き合いも……ごめんなさい」
押し潰されそうな感情が心拍を速める。
心中を探るような視線を向けられる私は、乾いた唾液を飲み込んで深々と頭を下げた。
「好きな男でも出来たのか?」
深いため息の後に届いた声。
「……はい」
頷いて、バツの悪さに唇をきつく閉じて顔を上げる。
「そうか。父親捜しを手伝ってくれた彼か?」
「えっ――」
「そうじゃないかと思っていた。先手を打ったつもりが、既に手遅れだったか」
容易に見透かされ面を食らう私。そんな間抜けな顔を見据える一之瀬さんは、目を細めて苦い笑みを漏らした。
先手を打って?―――じゃあ、私の気持ちの変化に気づいたから?悠希に私を渡したく無くてプロポーズに踏み切ったの?
彼の表情を見ていると、膨張する罪悪感が胸を突き上げる。
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