真実の行方

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優しくて、信頼が出来て、いつも平穏な安らぎで私を包んでくれた人。 そんな一之瀬さんとの関係を、自ら簡単に断ち切る事が出来るなんて。二ヶ月前の私なら考えもしなかった。 想われている事に胡坐をかき、曖昧な関係の居心地の良さに甘えて、彼の真剣な気持ちにも気づかない振りをしていた。 彼の好意を利用していなかったと言えば嘘になる。 「……ごめんなさい。本当に」 熱湯を飲まされるかのような自責が湧くのに、そんな当たり前の言葉しか出て来ない。 「もう謝らなくていいよ。……指輪、麗香をイメージして選んだんだ。餞別として受け取ってくれないか?」 「え……で、でも」 一度渡したプレゼントを、別れの言葉に添えて返される虚しさは想像がつく。 使う事も処分することも出来ないからと言って、別れを突き付けた相手に返品するのはただの自己満足。 返せと言われたら話は別だが。立ち去る事への罪悪感が欠片でもあるのなら、使うなり捨てるなり自分で対処するのが誠実さだと思う。 けれど、目の前にあるのはダイヤが埋め込まれた婚約指輪。ブランドバッグや時計とは訳が違う。 渡された時には「土産」だと冗談めかして言われたけれど、「そうですか」と言って容易に受け取れるものでは無い。 「……」 再び重い沈黙が漂う。 新緑が風に揺れる枝々の間を抜け、西の空から差し込む陽の光が刺すように痛い。 「麗香、最後に一つだけ聞いて良いか?」 葛藤に口籠る私を見て、一之瀬さんが話題を転じる。 「……」眉をひそめて無言で頷く私。 「一時でも、俺を愛しいと思ったことはあったか?」 私の瞳の奥を見透かす様な目をして、彼は儚げな笑みを浮かべた。
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