サヨナラの音

11/24
前へ
/844ページ
次へ
重苦しい沈黙が降りる。 「……ねぇ、知らないのはこの人の方じゃないの?」 今まで口を閉ざしていたもう一人が、私の様子を窺いながら言う。 「……そうみたい。だとしたら、自分だけ知らないなんて痛すぎる」 耳打ちされた彼女は腕を擦り、想定外だと言うように薄ら笑う。 「もう行こうよ。午後の検査が始まっちゃう」 「う、うん。そうだね、行こう」 ボソボソと会話をしながら、二人はこの場から引き上げようと私に背を向ける。 「待って!私だけ知らないってどう言う事!?」 引き留めようとする私。それを避け、彼女たちは逃げるかのように階段に向かって足を速めた。 「待って……待ってよ……」 胸にナイフを突き刺され、庇う者など一人も居ない場所に置き去りにされた私。その唇から、生気を失った弱々しい声がポトリと落ちた。 よりを戻したってナニ?正式な婚約ってナニ?私だけが、それを知らない? そんなの嘘。絶対に何かの間違い。悠希が私を裏切る筈が無い。馬鹿げた噂が広がっているのには、きっと何かの事情があるんだ。 「野次馬達の噂なんて信じない……」悠希に会って、悠希の口から聞いた言葉しか信じない。 でも、このまま私が逃げていたら、いつか本当に悠希を誰かに奪われてしまう。 芯から込み上げてくる独占欲と嫉妬心。唇を求め、肌を合わせ、情熱を解放したあの時間が思い出される。 ―――嫌だ。誰にも渡したくない! 弟だと言われても、禁断愛だと言われても、やっぱり私はあなたを愛してる。 涙腺が破壊されるのを堪える私は唇を噛み、彼に思いを伝える覚悟を決めた。
/844ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7109人が本棚に入れています
本棚に追加