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陽菜乃とホテルへ?―――まさかっ、私は何を疑っているの?
以前は下半身が無法地帯な男だったけど、今の悠希は違う。そんなに簡単に他の女に手を出す筈が無い。
疑っちゃ駄目。面白半分で広がった下世話な噂なんて信じないって、そう決めたじゃない。
今日ランチをしていた事だって、私の姿が見えないからってあの女が図々しく隣に座っただけ。
隙を突いて湧き上がる不安と、それを必死に打ち消そうとする心。不吉な動悸を鎮めようと何度も深呼吸を繰り返し、薄い雲の切れ間から降る月明かりを見つめる。
何処にも行くなと言ってくれた。離さないと言ってくれた。
残酷な運命が立ちはだかろうと、二人を繋ぐ心は容易には断ち切れない。愛に嘘はつけない。
悠希、疑ってごめん。あなたの言葉を信じているから。
静かな月明かりを深く吸い込み、マンションの駐車場を横切ろうと足を進めた。―――その時。
私の横顔を素通りした車のライトに気づき、引き付けられるようにそちらに目を向けた。
ドキッと心臓が鼓動を打つ。
伸ばした視線の先に見えるのは、間違いなく彼の愛車。駐車場を二つに仕切る縁石をぐるりと回り、指定の位置へ駐車しようと徐行を始める。
意を決して出向いたものの、駐車場でお出迎えとは予想していなかった。自分から距離を置いておいて、マンションで待ち伏せだなんて身勝手すぎる?
いや、身勝手なのは承知の上。今は体裁などどうでもいい。
初っ端から陽菜乃の話もタブー。話し合いどころか嫉妬心で感情的になって、一方的に銃弾を打ちまくってしまいそうだ。
あれこれ言い訳を考えながら、乾いた喉に唾液を落とす。
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