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耳に届くのは彼の車が鳴らすバックブザー。10m程離れた所に見える車を見つめながら、緊張した足取りで一歩一歩近づいて行く。
外灯の明かりに照らされて、俄に見えた悠希の後ろ姿。エントランスへ続くこちらに真っ直ぐ向かうと思いきや、彼は運転席のドアを閉め、何故か数歩進んだところで足を止めた。
車内に何か忘れ物でもしたのだろうか……、再び車の方へと体を向けた彼の行動を気にしながら、私は自分の尻を叩く様に足を速める。
―――ゆ、「悠希!」喉から押し出した声。
私の声を耳にした彼は即座に振り返り、闇の中で幽霊でも見たような顔をする。
「麗香……」
「ごめんね、突然来て。どうしても、今すぐあなたに会いたくて」
彼の反応を見てバツの悪さを感じながらも、不自然に引き攣る顔に笑みを貼る。
「私、あれからずっと考えてたの。やっぱり私、悠希が――」言いかけて、視界と共に言葉が凍てついた。
「瑞木……さん?」
突如彼の背後から現れたのは、月明かりに照らされるもう一つの人影。
天海陽菜乃……
どうして悠希のマンションに……。
大きな衝撃を受け息が止まる。
「……どうしてあなたがここに」
酷く狼狽し声が震える。直後に目に飛び込んで来た物は、彼女が手に持つスーパーの買い物袋。
「なに……何なの?……これはどう言う事……」
まるで状況が掴めない。我が目を疑う光景に身体が硬直し、大きく見開いた眼は瞬きを忘れる。
「どう言う事って……私は彼の恋人。だからここに居るの。あなたこそ、今更ここへ何の用?」
彼女は当然の如く言って、私と向かい合う彼に寄り添う様に立ち首を傾げた。
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