サヨナラの音

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「あなたが悠希の恋人?まさか、そんな筈ない!」 頓狂な声を上げて頭を振る。 「まさかそんな筈が無い?だったら、この状況は何だと思うの?」 そう言って、これ見よがしに買い物袋を持ち上げる。彼のために夕食の支度をするのだと言う様に、勝ち誇った笑みを浮かべる彼女。 更なる絶望感に喰われる。 嫌だ……信じない……信じない……こんなの…… 「悠希……何のつもりなの。悪い冗談は止めてよ」 縋る思いで彼を見る。その目に映るのは、口を噤んでアスファルトに視線を落とす彼の姿。 「往生際の悪い人ね。まだ解らないの?悠希はあなたじゃ無く私を選んで――」 「煩い!アンタは黙ってて!」 目の前に来た手を咬みつく勢いで、耳障りな声を叩き落とした。 夜のしじまを切り裂くように響いた私の声。賑わう街から流れて来るクラクションと、風に揺れる木の葉の音が耳の中で軋む。 「その子とよりを戻したなんて、婚約をしたなんて嘘でしょ?」 今にも滲んで来そうな涙を必死に堪え、悲嘆で震える声を絞り出す。 「……」 それまで俯いていた彼は顔を上げ、口を結んだまま私を見つめる。
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