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「だって可笑しいじゃない。急にこんな事。……分った。雅さんね。雅さんが私達を引き離すために何か企んで!だからあなたは――」
取り乱す私は、声を上気させ彼に手を伸ばす。
「いい加減にして!」
指先が彼に触れる寸前で、蝿を叩き落すかのように私の手を払い退けた彼女。
「見苦しい人。……良いわ。だったら納得が出来るようにしてあげる」
ため息混じりにそう言って、私を睨み付ける彼女は足もとに買い物袋を下ろす。
そして彼の胸もとに近寄った彼女は、艶めかしくその体を密着させ、空いた両手を彼の背中へと回した。
「おい、陽菜乃。……やめろ」
「良いじゃない。私達でこの人の目を覚ましてあげましょうよ」
「何をする気だ」
「そんな怖い顔しないで。……ねぇ、悠希。ここで私にキスして」
彼女は甘ったるい声で言って、私に見せつける様に唇でキスをねだる。
「何をバカな。こんな場所で」
苦笑して顔を逸らそうとする彼。
「大丈夫よ。暗くて遠くからは見えない。それとも、彼女が好きだから出来ない。なんて、まさかそんな事は言わないわよね?―――悠希」
彼女は不敵な笑みを浮かべ、彼の顔の輪郭をしなやかな指で撫でる。
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