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「ああ、そう言えば。そんな事を言ったな」
眉をひそめて口火を切った彼。
「そう言えば……言ったな?」
「その頃とは状況が変わった。麗香もそれは解っている筈だ」
解っている筈って……何を言ってるの?
姉弟だと分かったからこんな酷い仕打ちを?
これからの事をちゃんと二人で話し合おうと言ったのは、悠希の方なのに!
淡々とした彼の態度に怒りが湧き起こる。
「……それで、私との事は無かった事にしたいの?自分一人で元の鞘に収まって、それで終わりにしたい訳?」
「おまえもまだ間に合うんじゃないのか?」
「間に合う?」
「一之瀬……って言ったっけ?おまえに相当惚れてたんだろ?まだ遅くない。今から追いかけて行けば、元の鞘に戻れるかも知れない」
「何よそれ……まさか、本気で言ってるの?」
侮辱された私の心。愕然として瞬きを忘れる。
「勿論、本気だ。それがお互いのためだろ?」
それがお互いのため……
裏切っておいて、最後はお互いのためって何!?
ふざけるな!!
彼が放った不躾な言葉によって、心臓がドクンと大きな波紋を打つ。次の瞬間、炎のような激しい感情が噴き上げた。
悲しみを握り潰した憤怒が、腹の底でぐらぐらと沸く。
我慢ならない私は、彼の隣で笑みを浮かべる蛆虫女を肘で突き飛ばし、怒りで震える右手を彼の頬に振り落とした。
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