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頬を打った手のひらに残るのは、踏みにじられた心を担うヒリヒリとした痛み。それを押し殺す様にギュッと拳を握り、アスファルトに目を落とす彼を睨み付ける。
「いきなり何すんのよアンタ!」
肘鉄を食らった彼女は目を吊り上げ、二の腕を押さえて金切り声を上げる。
「悪いわね。引っ叩くのに障害物が邪魔だったから」
「しょ、障害物ですってぇ!?
これでどっちが邪魔者か分かったでしょ?哀れな女。さっさと私達の前から消えてよね!」
そう言って怒りを剥き出しにする彼女は、今度は私の服を掴んで後方へ突き飛ばそうと詰め寄る。
「やめろ陽菜乃。もう良いだろ」
私から彼女を引き離し、息を置くように冷静な調子で言う彼。
「だってこの女が先にっ。悠希にも手をあげてムカつくのよコイツ!」
「俺の事は良い。身から出た錆だ」
吠える彼女の動きを封じ、彼は表情を変えぬまま宥めの言葉を続けた。
この状況はいつか……
ああ、そうか。今の状況は食堂での出来事に似ている。
次の女の目の前で、廃棄物の様に捨てられた惨めな女。
一方的にピリオドを打たれた女は縋るほど哀れで虚しく、同じ別れを告げられるとしても、おそらくこれ以上の惨敗は無いだろう。
これが彼女が流した涙への贖罪なのだろうか……
孤独の谷に突き落とされて虚しさだけが残る。
「身から出たサビ……か。まさに因果応報。流石、女に不自由しない男は狡いわね」
自嘲的な笑みを浮かべ虚脱する。
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