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「私一人で……馬鹿みたい」
力を失った小さな独り言は、居場所を失った私と同じように夜風に掻き消された。
「聞こえなかったの?早く私達の前から消えて!悠希が言ったように、二度とここへは来ないで!」
苛立ちを露わにした彼女が強い口調で言う。
「だったらもう一度、あなたの口から聞かせて。私達は終わったと。これでサヨナラだとはっきり言ってよ」
赤く腫らした目で彼を真っ直ぐに見て、口もとに頼りない笑みを貼る。
本当は聞くのが怖い。これ以上壊れてしまうのが怖い。とどめを刺される事を恐れ、このまま尾を巻いて逃げ出すのは簡単。
だけど、これ以上惨めな女にはなりたくない。この女に丸めた背中を向けたくは無い。
それが、ちっぽけな女のプライドだと解かっていても―――
彼の真意を探る私の瞳。湿った闇に飲み込まれ、心臓がバクバクと破裂しそうな音を立てる。
彼と一つに重なる視線。
「麗香……」
名を呼んで、彼は伏せるかのように視線を逸らした。
一瞬僅かな期待が過り、胸がトクンと切なく鳴る。
「悠希、あ……」
「俺は陽菜乃を選ぶ。だからこれで、サヨナラだ」
しかし言葉の途中で再び目を合わせた彼は、いとも簡単に私との関係に終止符を打った。
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