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俺は陽菜乃を選ぶ――――
彼の言葉が頭の中で木霊する。
伴侶を選ぶと言うのならば、確かに私と言う選択肢は存在し得ない。
けれど、そんな倫理から逸脱した想いがあると信じていた。私への愛情を信じていたかった。
それなのに躊躇の欠片もなく、こんな呆気ない終わり方をするなんて。私はどこまで惨めな女なのだろう。
悲観を越し放心の底なし沼に突き落とされた私は、魂の無いマネキンのようにそこに佇む。
「……そう。あなたの気持ちは分かったわ」
哀れな自分を嘲笑い絞り出した声。
「ここまではっきり言われて、私もやっと目が覚めたみたい。安心して。もうあなたを追いかけたりしないから」
深く吸った息を鼻からゆっくりと吐き、感情を抑えて綺麗な笑みを形作る。
「……」
私を見つめたまま口を閉ざしている彼。
「目が覚めたですって?まるで負け犬の遠吠えね。ホント、最後まで見っとも無い女」
代わりに陽菜乃が唾を吐き捨てるように言って、蔑んだ目で私を見る。
見っとも無い女……か。
実の弟とも知らずに盲目の恋に落ちた私は、確かに誰が見ても無様な女。
真実を知っても尚、想いを捨てることが出来なかった。心のどこかで弟でも構わないとさえ思っていた。
そして、それは彼も同じだと高を括っていた。
それがこのザマ。 滑稽すぎて涙もドン引きだ。
――――もう、何もかもがどうでもいい。
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