自慰

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運が良い……ね。 所詮、行きずりの相手などその程度のもの。 何故ならこの男が抱いているのは私の器。 本質は心の抜け落ちた人形であろうと、見てくれが良ければ男の支配欲が疼く。 好みの女を己の欲望でねじ伏せていると言う優越感が満たされれば、内の良質など求めない。 そして私も同等に、耐え難い孤独な時間を埋められるならばそれで良い。 心が交わる事の無い動物的セックス。それは、お互いに自慰行為をしているのと変わりは無い。 私を捨てたアイツが陽菜乃を抱いていると想像する度、込み上げる怒りで気が狂いそうになる。 私の中に刻まれたアイツの記憶が消えるなら、この器を汚して情熱を消し去りたい。 「……いいっ、もっと!もっと奥までッ……ああぁ!」 男の顔もこの場景も記憶に留める必要は無い。 下半身に与えられる感覚だけを研ぎ澄ませるため瞼を閉じ、自ら快感の波を引き寄せる。 ―――――壊れてしまえばいい。 この身体に残された記憶など壊してしまえばいい。 失うことがこんなに辛いなら、愛なんて要らない。 最初から、私に愛なんて必要なかったんだ。 擦れる粘膜から迫り上がる熱の塊。荒々しく体を揺すられる度、慰みの快楽が走り抜ける。 「はあっ……ッ…イク……ああぁっ!」 両手で枕を掴む私は、弓なりに体を反らせ絶頂の声を上げた。 ―――――――― ――――――――
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