自慰

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ホテルの部屋を出た二人は、数時間前に出会ったBarがある繁華街に足先を向ける。 「これからどうしようか?」 サラリーマン風のスーツを着る男は、ロレックスの腕時計に目を落として言う。 「タクシーで帰るわ。明日の朝も早いし」 馴れ馴れしく肩を抱こうとする男の腕からさり気無く逃れ、真紅のルージュを引いた唇を引き上げて笑みを作る。 「そう言えば、麗香の仕事は何?」 「仕事?」 「あっ、待って。俺が当てるから。その美貌で普通のOLって無いよな~、雑誌のモデルとか……あ、超高級クラブのホステスって線もあるよな?」 肩を掴み損ねた男は、今度は半ば強引に私の腰に手を回し、浮かれた調子で耳元に顔を近づける。 つい先ほどまで体を繋いでいた相手だと言うのに。 コトを終えると肌の熱が引くのと同じように、血の流れに乗って感情が冷めて行くのを感じる。 気安く「麗香」と呼び捨てする声も、馴れ馴れしく密着させる体も、鼻を掠める彼の匂いも、全てが不快に思えて仕方ない。 他の男に抱かれる事で寂しさを紛らわせるつもりが、どうしてこんなに虚しくなるのだろう…… 今まで以上に孤独を感じる。 「残念。中小企業で働くしがないOL。モデルとかホステスとか、そんな煌びやかな世界とは無縁な女よ」 苦笑して、視界に広がる街のネオンに目を向けた。
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