自慰

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「マジで!?もし俺の会社に麗香みたいな美人が居たら、彼氏の座を狙って血の争いになるわ」 「大げさね。―――あ、ここで良いわ。丁度タクシー乗り場があるから」 咄嗟に男から体を離した私は、小さな罪悪感を感じながら頬笑みを浮かべる。 「……そう。……で?次はいつ会える?」 「え……」 「まさか、一夜限りなんて冷たいこと言わないよね?」 私の沈黙に気を悪くしたのだろう。男は離れて行こうとする私の腕をグイと掴み、笑顔の下に苛立ちを漂わせた。 後腐れの無い、クールな男だと思ったから誘いに応じたけど…… 私としたことがとんだ誤算。体だけの付き合いで、グチグチと面倒なのは御免なのに。 「そんな脅しみたいな言い方しないで。あなた程のイイ男が台無しよ?一夜限りにするかどうか今ここで約束するのは、女に縁遠いがっついた男のする事。もっと曖昧な関係を楽しみましょうよ」 掴まれた腕を引き、落ち着いた声色で微笑みかける。 「曖昧な関係を楽しむ?……なるほど。男を弄ぶ小悪魔って訳か」 「あら。貴方は女に弄ばれる様な情けない男なの?」 何か言いたげに苦笑する男を見据え、ククッと可笑しそうに笑う私。 「俺がそうだと言ってる訳じゃな―――」 「麗ちゃん!!」 突然、彼の言葉に重なって聞こえて来たのは、聞き慣れた太い声。 えっ………なっ!? 振り向いた視線の先に見えるのは、怖い顔をしながら一直線にこちらに向かって来る、灰色のビジネススーツを着た男性。 「磯崎さん!?どうしてここに!?」 「ちょっとアンタ!麗ちゃんに何してんのよ!!」 突如現れた磯崎さんは、私を捕らえる男の手を掴んでそれを捻り上げた。
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