自慰

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「真剣な付き合いって言われても……」 全くその気はない。と言うより寧ろ、初めから今夜限りの関係だと割り切って体を繋いだ男。 こんな私、磯崎さんには知られたく無かったのに…… 沈黙の中に入り込んで来る街の騒めき。国道を行き交う車の音を聞きながら、顔を曇らせた私は体裁の悪さに視線を戸惑わせる。 「そう、分かったわ。坊や、不躾なお願いをして悪いけど。二度とこの子には近づかないで欲しいの」 口籠る私を見据えた後、磯崎さんは小さなため息をついて言う。 「はぁ?バイの保護者だか何だか知らないけど、何でアンタにそんな事を言われなきゃいけねーんだよ!」 眉間を寄せ、不機嫌を露わに吐き捨てる。 「……坊や、掘られたいの?」 「ああぁ?………うぐっ、クッ。やっ、止めろ!」 磯崎さんはいきなり男のネクタイの結び目を掴むと、それごと首を絞り上げるようにして顔を近づける。 相手の顔に息が掛かりそうなくらいの近距離。 「聞こえなかったか?俺の巨根、おまえのケツにぶち込んでやろうか?きっと、悲鳴を上げて喜ぶだろうよ」 初めて聞いた磯崎さんのドスを利かせた声。「男」に早変わりした彼は目を座らせ、口もとには不敵な笑みを浮かせている。
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