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「……」
二人の真横に突っ立っち、衝撃的な映像の連射にフリーズしたまま言葉の出ない私。
「ううあああぁぁぁ―――ッ!!」
錯乱状態に陥った男はスーツの袖でガシガシと口を拭い、化け物でも見るような顔をしてよろめきながら後退りをする。そして背を向けたかと思うと、人混みに向かって一目散に逃げだした。
「あ……」
その背中を見つめながら、閉じる事を忘れていた私の口から間抜けな声が落ちた。
「あら~。坊やには刺激が強かったかしら?」
目尻にしわを寄せ、悪戯気に「ふふふ」と笑う磯崎さん。
衝撃を後追いして来たのは、とんでもない事をやらかしてしまったのではないかと言う、言い訳がましい罪悪感。
「これで、あの坊やの中に麗ちゃんの記憶は残らない」
「え?……」―――私の記憶が残らない?
「今夜の記憶で呼び起こされるとしたら、私の感触だけよ。お気の毒だけど、ザマーミロだわ」
悪戯を成功させた少年の様に笑う彼から滲み出るのは、大人の器量と溢れる優しさ。
「磯崎さん……」
そのために?二度と私を思い出さないように、男の中から私の存在を排除させるためにあんな事を?
こんな、馬鹿な私なんかのために……
どんな顔を向けたら良いのか分からない。彼と目を合せる事が出来ない私は、その目を伏せ、罪悪感を押し込める様に口を引き結ぶ。
「全く、世話の焼ける子ね。体を安売りするなんて、あなたらしくも無い」
耳に届いたのは呆れた口調と深いため息。
「……」
「自暴自棄になってどうするの?自分を大切に出来ない女は、本当の愛が何なのかにも気づけないわよ」
磯崎さんは黙り込む私を厳しい目で見据え、諭すように言葉を加えた。
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