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「……本当の愛?」
叱られた子供の様に肩を竦める私は、彼が言った不可解な言葉に首を傾げる。
「今の麗ちゃんは、悠希くんが望む姿では無い筈よ。あなただって、今の自分を彼に見せたくはないでしょ?」
私に言って聞かせる磯崎さんの瞳に映るのは、不変の優しさと私への憐み。
悠希が望む私の姿?
磯崎さんは何が言いたいの?何故ここで悠希の名前なんて出すのよ!
見つめられる程に自責の念が込み上げて、居心地の悪さに息が詰まりそうになる。
―――悠希との終わりを磯崎さんに報告したのは、惨めな敗北者となったあの夜から、一週間が過ぎた頃。
男心と女心の両刀使いが功を奏すのか、複雑な恋愛模様に頗る勘の鋭い磯崎さん。私の傷心に関しても虫の知らせがあったらしく、突然電話をくれたのは彼の方だった。
事情を全て知っている磯崎さん。だからこそ、こんな自分を見せたく無かった。同情なんてされたくなかった。
悠希だって同じ。
「アンタなんか居なくても平気」だと、「アンタよりイイ男を捕まえた」と、せせら笑って以前の私の様に廊下を闊歩してやりたかった。
その筈だった。
それなのに、あの日から一ヶ月が過ぎた今の私は―――
「どうしてアイツの名前が出て来るの?
私は私。別にアイツにどう思われようが関係ない。それに、男癖が悪いのは今に始まった事じゃ無いじゃない。……愛なんて知らない。知りたくも無いわ」
心を食い摘まむ胸の痛み。それを隠そうとする私は、これ見よがしに軽々しく笑ってみせる。
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