自慰

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捨てられない過去も受け止めて…… それって、磯崎さんは母がもし今でも大御所様に未練が残っていたとしても、私と大御所様の姿を重ね見る事が例え有ったとしても、その思い出ごと愛せると言う事? 熟年男の余裕と言えば良いのか。口先だけではないと判断が出来る、彼の言葉に胸が打たれる。 「どんな形でも、ずっと支えてあげて欲しい――、香織ちゃんは悠希くんにそう言ったそうね」 不意を突いた磯崎さんの言葉。『何があっても、どんな形でも麗香を支えてあげて欲しい』それは、マンションのエントランスホールで、最後に母が悠希に伝えた意味有り気な言葉だ。 何があっても……それは、姉弟であると言う事実が明らかになる、近い未来を示していたのだと今なら解る。 「何が支えるよ。そんなの無理に決まってるじゃない。母さんは恋人にも姉弟にもなれないなら、友達にでもなれって言いたかったの?有り得ない……そんなの」 可愛げなく言い捨てたのは、またもや望みもしないのに、陽菜乃と並んで歩くアイツの姿が頭に浮かんだからだ。 「そうじゃないわ。支えるのは側に居る事だけじゃない。離れていても、その人を愛し続ける事は出来る。人は、その想いを支えにして生きていく事も出来るのよ」 彼の口から放たれたのは、ただの綺麗事にしか聞こえて来ない夢物語。 離れていても愛し続ける?その想いを支えにして生きていく? 私の想いを踏みにじり、他の女と金目当ての結婚をする男を許せと言うの!?
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