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「……無理よ。想い続けるどころか、私はアイツの不幸を願ってる。結婚生活なんて破綻しちゃえばいいって、めちゃくちゃになっちゃえばいいって、そんなえげつない事を考えてる女なのよ、私は」
苦虫を噛み潰したように言って、心に渦巻く闇に煽られ顔を顰めた。
「……そう、分かったわ。もうこれ以上は言わないから」
暫しの沈黙の後、磯崎さんは深いため息を落として私を見据える。
「……」
「本当はこんなやり方好きじゃないけど、仕方ないわね」
そう言って、彼がジャケットの内ポケットから取り出したのは一枚の名刺。
エストマール……ダイニングバーかショットバー?
記憶に無いその名に小首を傾げる私。おそらくそこに書かれているのは、お酒を扱う店舗名と思われる。
「明日の夜10時。カウンター席を予約しておくから必ず来て」
「えっ!明日!?来てってここに?どうして?」
「とにかく来て。いい?遅れても必ず来るのよ。待ってるから」
磯崎さんは畳みかける様にそう言うと、戸惑う私の手を取って半ば強引にその名刺を握らせた。
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