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落ち着いた店内に流れるBGMはピアノ演奏。レトロな写真や骨董品が飾られた、大人の隠家的なショットバーのカウンター席に一人座る私は、時折スマホに視線を落としながら約束の22時を待っている。
待ち人は磯崎さん。
「はぁ……」
カウンターに滑り落ちるのは、自己嫌悪のため息。
それもそのはず。昨夜の自分の行動と言動を思い出す度、感情的になっていたとは言え己の稚拙さに嫌気がさす。
自暴自棄になった結果の尻拭いを、あんな形で磯崎さんにさせておきながら、母さんを責めて声を荒げたり……私ってホント馬鹿。一体どんな顔をして磯崎さんに会えば良いの?
彼に指示されたままにこの店に来たけれど、また昨夜の説教の続きが始まるのだろうか……。
正直、もう悠希の事で心をかき乱されたくない。悠希の事で、大好きな磯崎さんと言い合いをするなんてもう嫌だ。
ちゃんと磯崎さんに謝らなきゃいけないのに。今は会うのが怖い。
「はぁ……」
止む事の無いため息を重ねて、再びスマートフォンを手にする。画面に映し出されているのは、約束時間の1分前。
私は気を落ち着かせようと深く息を吐き、喉の渇きを潤すため、手元のフレッシュカクテルを口にした。
口の中にオレンジの香りが広がったその時、カウンターに置いたばかりのスマホがメールの着信を知らせる。
急かされる様にそれを開くと、受信BOXの上段に磯崎さんの名が―――
『麗ちゃんごめ~ん。急に香織ちゃんとデートすることになっちゃって~。そっちへ行けなくなっちゃった。でもね、そこのお酒も料理も美味しいから。楽しんでね~、ねっ。』
………はい?……ね~、ねっ?
「ちょっ、何だそれ!?」
謝罪の意など全く感じられない文字を読み、思わず心の声が漏れた。
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