導きかれし者

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父親を知らずに育った生い立ち。捩れていた母との関係。医師を目指した不純な動機。父親を捜すため、容姿を餌に利用してきた人達の事。 悠希と出会う前の私は、理解者である一之瀬さんに自分を曝け出していた。 そして、彼の好意に甘え過ぎていると罪悪感を持ちながらも、いつもさり気無く守られている事に心地良さを感じていた。 例えそれが、愛と呼べる感情とは違うものであってもーーー。 「もう知ってるかも知れない。未だ知らないかも知れない。今更だけど、一之瀬さんに隠し事はしたくないから」 自分の口から全て話そうと意を固め、大きく息をついた後、 「私と悠希は腹違いの姉弟。私と悠希の父親は同じ。楠木宗次郎なの」 真っ直ぐに彼を見て言葉を連ねた。 「え?……何を……姉弟?君の父親は赤川じゃないのか?」 「いいえ。赤川じゃない。DNA鑑定もした。楠木の血が流れていることに間違いはないわ」 「そんなっ。麗香があの楠木宗次郎の娘!?彼と姉弟!?待てよ、そんな、信じられない……」 顔面から冷水を浴びせられた様な表情。憶測にも無かったと言う様子で、一之瀬さんはその先の言葉を失った。 そうか、そこまでは磯崎さんも安易には話せなかったんだ。 それもそうだよね。想像すればするほど卑猥な情事。相手が信用できる相手だとしても、口外するには躊躇する。 親友の亜紀にさえ、この先打ち明けることは出来ないだろう。 「神様の悪戯としか思えない。今でも疑いたいけど、現実と向き合うしかない。現にアイツは私なんて見向きもしないで、新たな人生を歩んでる」 「そうだったのか。まさかそんな事情が……」 醒めない混乱の中、これ以上の言葉は見つからない様子で声を漏らした彼。 「薄情な奴だと腹が立つけど、正しいのはあっち。腹違いの弟だなんて笑っちゃうでしょ?官能小説の世界なら美味しい設定だろうけど」            「麗香……」 「本当はね、分かってるの。早く私も前を向かなきゃ駄目だって」 口にすると再び涙腺が破壊されそうになる。 複雑な顔をする彼から視線を外し、苦し紛れに笑って見せる。
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