招かれざる客人

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私と悠希の別離を切に願う彼女。逆転劇を起こすのなら、大御所様に打ち明けるのが手っ取り早いだろう。現時点で好意的な態度を見せている大御所様でも、真実を知れば容認などできるはずもない。 それなのに、彼女が統率者に逆らってまでも頑なに口を閉ざすのは何故なのか。 例え半分でも、私との血縁関係を拒絶したい心境は理解している。他に優先する理由があるとすれば、父親の威厳を死守するため―― 「あのさぁ、黙って聴いてれば好き勝手言ってくれちゃってるけど。あなた達に認めて下さいなんて頼んだ覚えはないし、これっぽちも望んでないからね」 思考を遮った悠希の声。彼は親指と人差し指の間で僅かな尺を作り、口の中で愚痴を転がすように言う。 「虚勢を張るな。当主である私が認めると言っているんだ。親族の誰にも干渉はさせない。無論、雅にもだ」 「だ、か、ら!そう言うのにウンザリしてるんだよ。ほっといて欲しいだけなのに、どうしてそれを分かってくれないんだ」 父親が差し伸べた手を振り払うかのように語気を強めた。彼の顔に浮かんでいるのは困惑と苛立ち。 「以前も伝えたけど、潤沢な暮らしを与えてくれたあなたには感謝してる。今回のことで迷惑を掛けたことも、心から申し訳ないと思ってる。その上、麗香の怪我のことで責任を感じられたら俺が困る。あなたの手を借りなくても俺達だけでやって行ける。頼むから、俺を切り捨ててくれよ」 必死に動揺を隠そうとする彼は言葉を紡ぎ、口もとに薄い笑みを貼り付ける。 「――麗香さん。君に一つ頼みごとがある」 突然かけられた低い声。悠希の横顔に置いていた視線を正面に戻すと、大御所様が私を見ているのに気づく。 「は、はい。何でしょうか――」 顔を強張らせて彼と視線を重ねる。 「不躾な頼みで申し訳ないが、DNA鑑定をさせてくれないか」 「えっ……」 『DNA』と聞いて、ドクンと心臓が不吉な音を立てた。すぐさま悠希が怪訝な声を挟む。 「はぁ?何でDNAなんだよ。何を調べるつもりだ」 その言葉に答える素振りを見せず、大御所様は雅さんに目をやる。 「手間を取らせて悪いが、おまえにも頼みたい。もう一度、私と彼女の血縁関係を調べてくれないか」 落ち着き払った口調でそう言うと、茫洋とした表情をこちらに向け直した。
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