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甘い感情とは違う。正面から心臓をグッと掴まれた様な、言葉では表現し切れない複雑な感情。
「……お兄さんを尊敬してるのね。正直、あなたの口からそんな夢が語られるなんてビックリよ」
返す言葉が見つからなくて、動揺の中でわざと憎まれ口を叩いた。
「そう?俺は永遠に夢追い人だぞ?ついでに~可愛い女子のお尻も追い掛け人~」
「……ああ、そうね」
「なに今の冷たい沈黙!冗談だってば~。俺、実は中学の頃に酷いイジメを受けてたんだ。次男には煙たがられて……結果、ヒッキーになっちゃってさ」
「ヒッキー!?あなたが!?」
我が耳を疑う話。
目の前で能天気な顔をする彼を凝視し、口を半開きのままフリーズする。
「そうそう。家から一歩も出られなくなった俺を救いだそうと、兄がアフリカに連れ出したのが最初。学校の成績は良かったから取り敢えず高校に入って、その後は長期の休みを使って何度もアフリカに渡った」
「……そこでお兄さんの仕事を?」
「現地に医者は少なくて、命を救うために『助手』として可能な行為には手を出した。あっちには結核患者も多い。だから、喀血は見慣れているんだ」
平凡とは遥かにかけ離れた昔話を淡々と語り、彼は私の顔色を見ながら目尻を下げる。
次男に煙たがられてって……
もしかして、あなたが本当の家族では無いから?
学校ではイジメを受け、兄弟にも邪険に扱われていただなんて、今の彼からは想像も出来ない。
今のあなたがあるのは、アフリカに連れ出してくれたお兄さんのおかげなの?
生きている心地のしない、真っ暗な世界から救い出してくれたのがお兄さん?
過酷な環境で戦うお兄さんの生き方に憧れて、自分も誰かを救いたいと……
そう思ったの?
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