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「もし本気で愛してる男がいるなら、いくら父親探しのためとは言え俺を拒絶するだろうし。それに、麗香は一人の男に執着するタイプには見えない。満足できない―――と言った方がしっくり来るか」
「……同じ穴の狢。またそう言いたいの?」
「違うか?」
一々癇に障る得意満面な彼の笑み。
悔しいけれど、言い返せない程に全てが図星だ。
そう、些細なことで彼に苛立ちを覚えるのも、反発したくなるのも、きっと出会ったあの夜から彼には敵わないと本能が察しているから。
捩じ伏せられると解っていても、培ってきたプライドが牙を剥く。
あんな凄い手技を見せられて、更には現実離れした医師としての夢まで語られて、ただ父を捜す手段のためだけに医師を選んだ自分が不純に思えて仕方ない。
「違わないわね。それ以上に……」
人を愛する喜びも苦しみも知らない私は、あなたがしている事以上に残酷な恋愛ごっこを繰り返して来たのかも知れない。
「それ以上に?なに?」
「ううん、何でもない。それより、バッジは?見つかったんでしょ?」
話題の矛先を変えて微笑みを向けた。
「ああ、バッジな。そうだったそうだった」
彼も思い出したように箸を置いて、長財布の中から取り出したソレを私の前に差し出す。
無言で受け取ったバッジ。手のひらに戻って来た蘭の花に目を置くと、嫌でもあのいかがわしい部屋の場景が頭の中で再生させる。
「俺も調べてみたけどバッジは本物。偽物じゃなかった」
「本物?だったら、どうしてあの徹って男は……」
「おそらく、麗香の反応を見てカマを掛けたんだろ。それにまんまと引っ掛かった。
大体、おまえが隙だらけなんだよ。あんなルックスもセックスもCランクな男に引っ掛かりやがって。そんなに飢えてたのか?」
明らかに私を馬鹿にして、眉根を寄せる彼が大きなため息をつく。
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