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隼人は環からケータイを取り上げて、持ち主を睨みつける。女子みたいにじゃらじゃらつけたストラップが揺れて光る。
嫌そうに環の大きな目が隼人を睨み返した。
「……やめろよ、こういうの」
「うるさい、返せ」
「やめろ」
「やめない。いいよぉ、お前が俺を縛り付けてくれるなら考えてあげても」
バカにしたように、何か、自分を嘲笑するような笑顔を環は隼人に向けていた。
「いいよ、じゃあ俺だけのになって」
「冗談だよ、気持ち悪いくせに強がってんな」
「強がってない」
環は隼人からケータイを奪い返して耳に当てる。
目を細めて隼人を一瞥し、教室から出て行った。
「ごめんごめん、いや、俺暇だからさ」
ばたんと閉じたドアの音。
誰もいなくなった部屋はやけに静かだ。
片手で持っていた資料を隼人は近くの机に投げ置いて、溜め息を吐きだした。
虚しくないの、それ。そう問うても誰もいないその部屋で返事は返ってこない。
何で泣きそうだったの。環がいても泣くわけないじゃんとバカにしたように笑うのだろう。
5時間目、やっぱり環はいなくて。
無意識に隼人はシャープペンに力を込めて何度も芯を折った。
帰りに戻ってきて、放課後机に伏せていた環が隼人にぽつりと告げた。
「……俺、本当はお前に知られたくなかったわ」
何で。と隼人は首を傾げる。
いや、知らぬが仏とはまさにこのことだったのだが。
疲れているのか眠そうな顔をした環が目をつぶったまま隼人とは反対方向に顔を向ける。
「お前とは友達でいたかったから」
暗にそれは俺のこと嫌ったんだろと隼人に告げていた。
引いたのだろうと雰囲気が伝えてくる。
口を開いて、昼と同じ言葉を隼人は吐き出す。
「俺だけのになって」
「憐れみなんていらない」
「そんなんじゃないよ」
隼人の方を向いた環は泣きそうな目をして、頬を赤くしていた。
環、お前はさ、愛されたいんだろ。
それなら俺が愛してあげるから。
一途になれるくらい愛してあげるから。
男同士の恋愛とかよくわかんないし、多少の抵抗はあるけどまぁ何とかなるでしょ。
親友のお前の為なら、そんな風にしたっていいと思ったから。
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