第1章

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てか、ヒーローってこういう場面で登場するもんじゃなかったっけ。期待なんてしてないけどさ。 おい、コイツ自分で買ったラノベ破りやがったよ。なにがしたいだよ。 粗方破った後、満足したのか「ふー」と一息つく。 「てめぇが読んでるこれ、マジでキモいんだわ。創る価値なしだよ。こんなんがあるから日本が汚れるんだよ。あっ、お前がいる時点で汚れてるか!!!」 それに合わせ、取り巻きが笑う。 言葉が幼稚過ぎるだろ。中学生かよ。取り巻き若干苦笑いだろ、絶対。 ああ、こんなやつと話したくないから、どっか消えてくんないかな。 俺がどっか行けばいいんじゃないかと思い、体を動かす。 その矢先、言葉が放たれる。 「どこ行こうとしてんの?」 取り巻きAが俺の行動を制止させる。 そんなものはお構い無しと、再び動き出そうとする俺の身体は虚しくも、真ん中の男の言葉によって縛られた。 「行くんならさ、お前の小説、全部破ってからな?」 どう足掻こうと、先は変えられないことぐらい分かっていたからだろうか、容易に引き出しから取り出せた。 自分の仕事は終わり、安堵しきった俺の表情を察してか、真ん中の男が言葉を紡ぐ。 「お前の手でだよ?」 おいおいおいおい。お前らはなにがしたいんだよ。俺がなにかしたっていうのか? だが、この状況、俺が何かをした、してないなど一切関係ない。何をしたって無駄だ。 ただ、行動を起こした方が得策と言うものだろう。 頭に二つの考えが浮かぶ。 一つ目、コイツらに反抗する。 相手はそれなりの数だし、そもそも俺にそんなことできるか。 二つ目、潔く謝る。 謝れば許してもらえるかもしれない。謝ることぐらいできるはずだ。 前者よりも後者の方がいい。俺の意思はある程度固まった。 コイツらに謝るのは筋違いだが、今大切なのは何かする事だ。 だから・・・ いつの間にか手に握られていた紙束に、怒りを、情けなさを、悔しさを、沸き上がってくる感情の全てをのせて、破り捨てた。 それは、静かだった教室に歓喜をもたらした。 宙に舞うちり紙は、どこかもの悲しげに、俺を見つめていた。
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