産まれると決めたその時に

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**  どれくらいこの暗闇の中に居たんだろう? 僕の意識は雲の上に居た時みたいにはっきりしていない。眠っていた様な気もするし、ずっと起きていたような気もする。ああ、これが人間になるって事なんだね。  外が騒がしくて僕は意識を集中させた。オカアサンの声がする。ドンと僕の体が揺れた気がした。オカアサンがお腹を触ったんだ。ようやく僕に気付いてくれたんだ。だけど、何だか変だな。オカアサンの泣いている声がする。どうしてそんな悲しそうなの? オトウサンは何処? ねえオカアサンどうしたの?  僕はオカアサンの中を動いた。オカアサンの声が良く聞こえる場所があった。僕は耳を澄ませて声を聞いてみたんだ。  「――どうして? 妊娠なんて、望んでないのに。ちゃんと避妊、してたのに」  え……?  「菫、僕は嬉しいよ? 子どもが出来たんだ。嬉しい事じゃないか」  この人がオトウサン? オトウサンは僕が出来て嬉しいけど、オカアサンは違うの?  オトウサンの言葉の後、オカアサンの体が激しく揺れた。僕もオカアサンの中で揺れた。  「ダメなの……。私、親にはなれないの」  どうして? 僕のオカアサンになってくれないの? オカアサンは僕が嫌いなの? オカアサンはとても優しい人じゃないか。僕ずっと見てたんだよ。雲の上から何回も何回も。オカアサンは他の人と違ってとても優しくて、笑顔が可愛くて、僕はそんなオカアサンを何度も探して選んだんだよ。  「この子は産めない……。私は母親にはなれない。子どもなんて欲しくないの!!」  オカアサンは泣いている。とても苦しそう。僕はオカアサンに笑っていて欲しい。あの笑った顔がとても大好きだった。だからこの人を選んだんだ。それなのに僕はオカアサンを泣かせてしまったんだ。ごめんね、オカアサン……。オカアサン泣かないで。僕のせいで泣かないで。ごめんなさい。ごめんなさい。オカアサンを選んでごめんなさい。でも、僕、オカアサンしか選べなかった。他のオカアサンは嫌だった。僕は貴方の子どもになりたかった。
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