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オカアサンの泣く声は遠くなっていった。オトウサンの声も聞こえない。僕は望まれなかったんだ。望まれなかった子どもがどうなるのかは何回も見て来た。可哀想だと思ってた。僕は違うって、そうはならないって思ってた。だけど、僕も望まれない子どもだったんだ。またあの眩しい世界に帰るんだ。きっとあの羽の生えた人は笑顔で、おかえり、って言ってくれる。そう言っているのを何度も見た。そして笑顔でキスをしてくれるんだ。僕はきっともう、あの世界から出る事はないだろう。だって僕には他のオカアサンは選べないから。眩しい世界で皆が産まれて行くのをずっと見ているだけなんだ。それでも僕はこの人を選んだ。この人なら愛してくれると信じた。この人じゃなきゃ嫌なんだ。それがこの人を苦しめてしまった。僕は酷い子どもだ。オカアサンごめんなさい。僕、オカアサンの子どもになりたかったよ。でも、オカアサンを泣かせたくないんだ。ごめんね。ごめんね。
僕は届かないと分かっていながらも手を伸ばしていた。オカアサンの体に、まだ透き通っている僕の手が触れた。僕はちょっとずつ人間の形になっていたんだ。体を持っていたんだ。それだけでも嬉しい。オカアサンがくれた体だから。僕の手はオカアサンのお腹に触れて温かくなった気がした。オカアサンさようなら。大好きだよ。そして僕は死を感じて目を閉じ、暗闇の中に戻った。もう大好きなオカアサンの声を聞くことも、顔を見る事も出来ないのだ。
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