産まれると決めたその時に

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**  またどれくらいの時間が経ったのか分からなかった。でもそこはとても眩しかった。眩しくて周りが見えない。ああ、僕は帰って来たんだ。あの眩い世界に。羽の生えた人は何処だろう? どうしてか辺りが見えない。こんなにも眩しかったかな? ずっと暗い所に居たから眩しいのに慣れないのかな? それにしても、ここはこんなにもうるさい場所だったかな? 誰かの叫び声がする。でも悲しそうな物じゃない。とても力強くて生き生きとしている。  「はっ、はぁっ……。ああ、ああっ」  誰かの泣く声も聞こえた。聞いた事のある美しくて優しい声。その人は泣いているけど、でもとても嬉しそうな泣き方だった。僕はなんだか揺れている事に気が付いた。おかしいな。雲の上ではこんなにも揺れる事はないのに。あそこではただ漂ってふよふよとしているだけなのに。なんだか変だ。  「ああ、私の赤ちゃん……!」  赤ちゃん? どこに?  僕はそう思った瞬間、ハッと意識が覚醒するように感じた。眩しい世界で、顔がぼやけて見えた。耳がはっきり聞こえた。  僕の体は温かい腕に抱かれている。僕の目の前で泣いているのはオカアサンだ。叫び声の様な力強い泣き声は僕の物だった。オカアサンは嬉しそうに涙を流して、その雫は僕の体に落ちた。温かい。これがオカアサンという人? これが人間の体? でもどうして? 僕はオカアサンに望まれなかったはずなのに。  「よかった。元気に産まれて来た……。よかった。産んでよかった……」  オカアサンは僕を抱きしめてそう呟いた。僕は嬉しくてもっといっぱい泣いたんだ。僕はこの世に産まれたんだ。オカアサンの子どもとして。
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