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 あなたのお部屋の真ん中で 静かに刺されてくださいな  わたしの想いを知りながら あなたがわたしを殺すから  それともお庭の片隅で わたしに刺されてくださいな  きっと楽しくなるはずよ あの日の思い出浮かぶから  姉が死んだのはもうずいぶん前のことだが、日記を発見したのはつい最近だ。  かなり歳の離れた姉で、ぼくが生まれたときには中学三年生半ば。  とても可愛がってもらった記憶があるが、それも歳の差の影響だろうか。  当然喧嘩などしたことがなく、時折ぼくが癇癪を起こしたときには諦めたように中空を睨む。  幼いぼくには姉の目の色が読めないが、「困ったな」とか「ああ面倒臭い」といった感情ではなかったはずだ。  もしかしたら将来のぼくの姿を想像していたのかもしれないが、事実を聞きだす前にこの世から去ってしまう。  死後は天国にいるのだと信じたいが、日記の中に詩を発見して、ぼくは戸惑う。  よく見知っているはずの他人の心が急にわからなくなることはあるものだが、姉の場合、ぼくはいつも違う姿を見てきたようだ。  ぼくが癇癪を起こしたときに姉が見ていた中空と同じような意味で……。
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