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好きでもないのにどうしてか あなたはわたしを構うのよ
綺麗な子たちはいくらでも あなたを欲しいとよがるのに
あなたは何人抱きしめる お家の裏のあの場所で
か細い身体を怒らせて あなたは忽ち鬼になる
姉の詩が真実を語っているのかどうか、ぼくは知らない。
いくつになっても少女の心を失わなかった姉が単に空想の世界に遊んだだけなのかもしれない。
ぼくの家族はぼくが生まれてしばらく経ってからそれまで住んでいた家を引っ越している。
だからぼくには姉の詩の中にある情景が単なる創造の産物なのか、それとも実際にあった光景の借用なのかの判別できない。
母が亡くなったのはぼくが生まれて間もない頃のことだと訊かされている。
今では父も死んでしまったので、当時ぼくたちがどこに住んでいたのか知る者がいない。
実際にその場所まで出向けばかつての知り合いはいるのだろうが、この先会えるとも思えない。
両親は一度も、その土地のことをぼくに話す素振りを見せずに一生を終える。
姉もそうだったが、話したそうな気配を感じたことが数度ある。
そのときの姉の表情には懐かしさと怒りが共存していて、ぼくはまるで人ではないものを見てしまったかのように感じたことを思い出す。
……かといって神様の仲間というわけではないが、不可思議、不思議。
手足は細くて素敵だったが、客観的に言って美人ではなかった姉が、そんな美醜の範疇を楽々と乗り越えてしまったかのようだ。
が、それもぼくの姉に対する想いが生んだ幻想かもしれない。
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