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……そりゃ、わかっているさ、
この結婚にこの国の未来がかかっていることくらい。
けど、あいつにいわれることに腹が立つ。
山に囲まれたギルミア王国は農耕地や資源に乏しく、
手先の器用さを生かした小間物細工と、
進んだ魔道技術により
魔道薬の生成によって成り立っていた。
当然、原材料や食料の多くは輸入に頼っており、
とくにナハル帝国からは
食料の八〇パーセントを輸入している。
そんなナハルから申し込まれた姫君の輿入れ。
断ればどんなことになるか、
小さな子供でもわかりそうなことだ。
……はぁーっ。
ウィッツの口から、
その底は空よりも遠いといわれている、
セイケ渓谷よりも深いため息が落ちる。
……そりゃ、ナハルのお姫様と結婚して、
跡継ぎをもうけなきゃいけないことくらい、
いくらバカな俺だってわかるよ。
でも、俺が好きなのはテオミルで。
ほかの誰かから同じことをいわれたら、
ここまで意固地にならなかったかもしれない。
けど、ほかでもないあいつの口から、
ほかの、しかも女と結婚して子供を作れ、
とかいわれるのが嫌なんだ。
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