青いベンチ

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とは言っても、近くに立ち寄れそうなお店も何もないので、私たちは目の前にある公園の、冷たいベンチに腰掛けたのだった。 人っ子一人いない公園、青い塗装の剥げかけたベンチは、暁美ちゃんには似合っていなかった。暁美ちゃんだけ、どこか違う場所から切り取って無理やりこの空間に貼り付けたように、ちぐはぐだ。 私たちはしばらく仕事のこととか、家のことなど当たり障りのない世間話をしていたが、徐々に暁美ちゃんは饒舌になる。まるで私が仲のよかった友人のように話すので、私も少しずつ暁美ちゃんに色んなことを話したいと思うようになった。 しかししばらくすると、私は暁美ちゃんを好意的に感じると同時に羨ましくなり、そしてわずかな嫉妬心さえ顔をのぞかせるようになっていった。 暁美ちゃんも働いて1年も経たないというのに、彼女は仕事にやりがいと大きな展望を持っていた。もちろん大変なこともあるけれど、彼女には目指すものがあると。 それを聞いて、彼女が私より頭2つか3つ分だけ高い位置にいるような感じがした。私は彼女を見上げて「ふうん、すごい」と気の無い返事をする。 私に語れるものはなかった。毎日早くうちに帰ることだけを楽しみに仕事をして、帰ったらさっさと食事と風呂を済ませて寝て起きて。淡々とした毎日が過ぎていく。でもそれで満足。 そりゃあ仕事は楽しくないし面倒だし、嫌いな上司はいるし。こんな人生もうやだな~とか思っちゃう時もあるけれど。平坦で安全な生活送ってる分まあいいんじゃないかと結局納得はしている。 そんな私とは正反対に、暁美ちゃんは日々精進、充実した毎日を送っているらしい。平日は帰宅したら仕事の勉強だし、休日は友人と外出したり彼氏と会ったり忙しくも楽しい時間を過ごす…。 ひねくれ者の私には、聞いていて気分のよくなるものではないが、きっと暁美ちゃんはこれを誰かに聞いてもらいたくてうずうずしていたのだろう。大して親しくもなかった私を捕まえてまで話したかったのか。
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