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細切れの紙片にはなにやら金額らしき数字が並び、未払い、期日までに必ず、などの文字が見て取れた。
借金の督促状、というものなのかもしれない。
家の経済状態は把握していなかったが、少なくとも借金をしなければならないほど寺山家の家計が困窮しているとは思えなかった。
今は、働き手が二人に増えたのだし。
だとしたら、これは信夫の個人的な借金なのだろう。破棄するということは、返済を無視しているということなのだろうか。
草太は無意識に眉を顰める。
たった数センチの紙片を見ただけなのに、関谷信夫という人間の別の面を見てしまったように思え、寒々しい感覚に捕らわれた。
ついさっきまでは家族として認識していたというのに、血の繋がっていない者への信頼というものはこんなに脆いものなのかと自分でもおかしく思いながら、草太は手の中の紙片を、もう一度注意深く広げて眺めた。
千切られた書類の一部に、金貸しらしい会社の名前と所在地が印字されていた。
駅前の商店街の外れだ。
田舎町特有の寂しい場所で、シャッターの降りたままの店舗も多く、そういえば街金や質屋の看板も見かけた気がする。
そして数日前、不審火で半焼してしまった岸田の家の近くでもあった。
ドアが開く音がし、信夫の姿が見えたのと同時に、草太は手の中の紙片を屑籠に落とし込んだ。
重ねて持っていたプチトマトも一緒に落ちていき、筒の中で小さくコロンと音を立てる。
「どうかしたか? 草太」
「いや、なにも」
「そっか。風呂にお湯溜ておいたから、先に入るといいよ。夜は少し涼しくなってきたから、厚手の毛布も後で出しておこうな」
相変わらず、母親のような細かい気の遣いようだった。
常に草太を気に掛けていてくれる。視線も言葉も優しかった。
草太は、まだ指先に張り付いていた紙片をひとつ、さりげなくゴミ箱に落とす。
「うん。ありがとう」
信夫が電話の子機を充電器に戻すカチャリという音が、小さくリビングに響いた。
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